池澤夏樹 3編
池澤夏樹という作家、よく雑誌のコラムなんかで目にはしていたので、名前は知っていた。つまり短文しか読んだことがなかったので、印象といえるようなものは、僕の中にはまったく残ってはいなかった。
で、あるとき、1冊の池澤夏樹が舞い込んできた。頼んでもいないのに、貸してやる、読めって。「光の指で触れよ」。分厚いハードカバー。苦手なボリューム。まあ、せっかくやから、トイレの入り口に置いといて、毎朝の読書の時間にでもぼちぼち取り掛かるか。
この作品は、風力発電を開発するエンジニア・林太郎と、環境保護活動に熱心な妻・アユミ、その夫婦一家のお話。舞台は日本だけでなく、ネパールやスコットランドなどに渡り、ストーリーの展開もテンポよく、どんどん読まされていく感じ。
またこの小説には前編があって、「すばらしい新世界」という。途中で、どうしてもこのお話の始まる前が知りたくなって、こっちにも手を出す。文庫本を注文。
後編である「光の指で・・・」は、第二子のキノコちゃんの存在がキーになっているが、前編の「すばらしい・・・」では、上の森介の大冒険が核になっている。あ、ネパールが舞台になるのは、この前編のほうか。ちょっと頭の中が混乱している。
とにかく、この2編で、池澤夏樹という作家への興味が確立された感じ。作中人物の息づかいや、立ち居振る舞いの描写が心地よい。
小説としては長編で、綴じられたものの厚みを見るとひるみそうになるが、読み始めるとどんどん読まされてしまう。
そんな強い印象があったからだろうが、図書館で偶然に3冊目の池澤を、なんとなく手にとってしまった。「キップをなくして」。先の2編よりは短い。どういうお話なんだろうとまったく想像がつかないまま、借りてきて読み始めてみる。
自分の切手のコレクションを完成させるべく、切手屋さんに向かう途中から物語が始まる。主人公イタルは、電車から降りて改札を出ようとするそのとき、キップをなくしてしまっていることに気がつく。「キップをなくした子は、駅から出られないのよ」といわれ、迎えに来た(!?)フタバコちゃんに連れられて、駅構内のとある部屋へ。そこは、駅の子の詰所。
出だしの数十ページまで、ストーリーの全体像がぜんぜんつかめないまま場面が展開していくが、フラストレーションがたまっていく感じはしない。これも、池澤の筆力なのかとまた改めて感心する。
筋をばらしてしまっては面白くないので、これ以上触れないが、最後は安心感と達成感と、小説のなかを飛び回る少年たちと一緒に、自分も少しやさしくなれたようなさわやかな幻想に浸ることもできた。そして、これはファンタジーだったのだとようやく気づく。
どの作品も、池澤が伝えたいこと(世界)というのが、組み込まれているようには感じるが、それをいちいち言語化するのは野暮な気さえする。言語化がそぐわない世界観を、伝えようとしてくれているのかもしれない。


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